contact gonzo お笑いとパフォーミング・アーツを分かつものは何か考える その1
この中で個人的に重要だと思うのは下記の3箇所ではないかと思う。
1.Aが仰向けに寝転ぶ。続いてBがその上に乗る。10分後、Cが大きな石を持ってさらに乗る。
2.暗転はAがボルトナットをドラムにあてたら、Bがそれを判断して照明を消す。
3.すべてを真顔で無言で行う事。
この作品の登場人物は4人でそれぞれが動作に対して制約を持っている。まず寝転んでいるAは、BとCが身体の上に乗っていると身体が不自由な状態でボルトナットを投げドラムに当てなければならない。なおかつ、「すべてを真顔で無言で行う」必要がある。BとCは石などの重い荷物を持ち続けながら、Aという不安定な「足場」の上で5分または15分過ごさなければならない。DはAがドラムにナットを当てなければ登場することすらできない。
しかし、この4人の制約を比べれば誰もがわかる通り、Aの制約のウエイトが他の3人と比べて圧倒的なまでに大きい。そのため、「すべてを真顔で無言で行う」という制約は後半にいくに従って破られる回数が多くなっていく。「ウッ」と「オェ」といった呻き声は口元に配置されたマイクに漏れなく拾われ、会場内に響き渡る。当然、その声に呼応するように客席からは笑いの声が漏れていく。また、そのような辛い状況でありながら、Aは袋からナットを取り出してはドラムに当てようと狙いを定めて投げる。普通にやればほとんど当たるであろう距離にも関わらず、上に人が乗った状態で首を十分に動かせない状況ではなかなか当てることができない。投げたナットがドラムの上を通過し、床にコロコロと音を立てながら転がっていく。ここでもまた、ドラムに当たったときよりも当たらずに床に転がるほうが客席から笑いの声が上がる。
この様子はある意味で「無茶振り」をして笑いを取るバラエティ番組のようであるが、とはいえ観客たちは決して彼らのパフォーマンスを笑うために観に来ているわけではないだろう。ということは、contact ginzoのパフォーマンスにはバラエティ的な笑いを生で観るということとは違う、「パフォーミング・アーツ」足らしめる何かがあるということになるのだろう。そこは分けるものはなんなのかというのを考えてみたい。
こういったことを考える契機となったよは、このパフォーマンスを観る数日前に、テレビにてバナナマンとバカリズムによるバラエティ番組「そんなバカなマン」で「ノーリアクション柔道」というコーナーが行われていた。ルールは非常にシンプルで、自分に起きる出来事にどれだけリアクションせずにいられるかを二人で競うというものだ。この点はゴンゾの「すべてを真顔で無言で行う事」というルールと重なる点がある。では、どのようなことが行われているかをいくつかのキャプチャを用いて説明していく。
ノーリアクション柔道の「水ぶっかけ」はバナナマン設楽がペットボトルで水を飲んでいる状態からペットボトルを勢い良く向かいに立っている相手に対して振り、水をぶっかけるというものである。
このようにして勢いよく水をかけられた後でどれだけリアクションをせずにいられるかが本来の趣旨であった。しかし、企画上の(幸運な)トラブルが発生する。それは、水がかけられるバカリズムよりも水をかける側の設楽のほうが多く水がかかってしまうのである。それに対しバカリズムは笑いを堪えられず、微妙な表情を浮かべるのである。
このキャプチャを見て、このコーナーが「パフォーミング・アーツ」だと思う人は恐らくいないだろう。ではなぜ、そういう差が生まれるのだろうか。このコーナーは、そもそも「人に水がかけられる様子が面白いのでは?」とか、「そんな水をかけられた人がリアクションをガマンするのを見るのも面白いのでは?」というのが企画の発端ではないかと思う。しかし、企画の根幹に「面白さ」があるとアートなりえないのかとそうではないだろう。ゴンゾも早稲田での公演後に行われたトークショーにて、思いついた面白いことを試して作品作りをしているようなことを話しており、「面白さ」という一言では区別することは難しいだろう。
実はコンタクト・ゴンゾの作品を見終えたときには、この二つを比較して「ガチ」であることと「ルールの複雑さ」にこそ、アート足り得る要素があるのではないかと考えていた。「そんなバカなマン」は(別に悪いことではないが)どこか緩いテンションで進行しており、それ故にルールがイマイチ機能していないのではと思ったからである(設楽に水がかかってしまうのを我慢するのは本来の想定されているリアクションとは異なるため)。しかし、このことは別のバラエティにより簡単に覆すことができるのである。続く。
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