藤井隆『Coffee Bar Cowboy』レビュー

 『Coffee Bar Cowboy』は藤井隆3枚目のオリジナルアルバムであり、彼が作曲を手がけた曲が含まれる最初の作品です。そんな彼のある意味処女作とも言える作品は野心、仁義、謙虚さ、大胆さといった複雑な要素を併せ持ちながら、アルバムを通して決して飽きさせることのないダンス・アルバムになっています。ダンス・アルバムにおいて聞いていて飽きさせないというだけでも相当に難易度が高いにも関わらず、おそらく藤井隆のみが抱えていたと思われる勝手ルールが作品から伝わり、なおかつクリアしていることからも彼の音楽家としての才能の高さが存分に伝わる傑作ではないでしょうか。
 今回のアルバムで藤井自身が作曲を手がけているのは5曲(うち、西寺郷太との共作が1曲)で、その曲の長さを見るとこのアルバムのちょっとした異様さが見えてきます。藤井作曲の曲と長さを曲順に挙げていくと、M1「YOU OWE ME」が7分56秒、M2「Quiet Dance feat. 宇多丸」が4分13秒、M4「driving me crazy 」が7分9秒、M5「make over feat. 乙葉」が4分7秒、M7「discOball」が6分21秒となってます。フィーチャリング曲以外の曲がポップソングとしての尺で考えても、またはプロモーションなど観点から考えても長過ぎるのです。こうした尺の長さと彼が作った曲調から考えられるのは、「自分が作った曲を全て12インチレコードでリリースしたいのではないか」ということです。そう考えると、なぜM1「YOU OWE ME」のイントロが1分30秒近くあるのかも納得がいきます。自分が、もしくは他の人にDJする際に使ってもらいたい、そのためにはミックスのための尺が必要ということではないでしょうか。ただ、そんな野心を抱いているとしても、叩きようのないクオリティなのが恐ろしいところです。
 また、客演を務めるのは彼が再度アルバムを作る決意をさせたライムスターの宇多丸や、妻の乙葉、これまでの藤井作品や今作でも詞を提供しているYOU、そして共同プロデュースを手掛けるNONA REEVES西寺郷太といったこのアルバムを作ることを支えたであろう人を全て登場させているのも印象的です。にも関わらず、例えば、宇多丸のラップにはかなり細かいテーマの指定をしていたりします。

西寺 藤井さんの歌詞は1つひとつに映像が付いてるんですよ。宇多丸さんとの打ち合わせでも「迎賓館にある国の王子がいて、立食パーティにも疲れたなと窓辺で外を見ていたら、2人の若者が歩いていくところを目撃して」みたいな感じで具体的に話していたんですよ。※1

 こうした自分で作った制約にも関わらず、ただの客演で終わらせないプロデュース能力も高く発揮されています。その他、アルバムの収録順やシングル曲のリミックスなど様々な観点から熱意を感じるこのアルバムは藤井隆をアーティストに押し上げた作品であり、今度は近いうちに出るであろう次回作への期待が高まる作品となっています。

※1:http://natalie.mu/music/pp/fujiitakashi